貧血と栄養素の関係
女性と貧血
閉経を迎えるまでの間、女性には毎月月経があり、生理中から生理後は経血と一緒に鉄分が失われてしまうため、どうしても貧血に傾きやすくなります。また、日頃の偏った食生活や無理なダイエットも鉄分不足を招きます。貧血には種類があり、どの貧血かを判断するには、血液検査が必要です。自覚症状がなくても貧血が進んでいることは多いものです。月経がある女性は特に貧血になりやすいので、定期的に血液検査を受けた方がよいでしょう。
貧血とは
貧血は、血液中の赤血球の数や、その中で酸素を運搬する役割を担うヘモグロビンというタンパク質の量が不足することにより、血液が組織に十分な酸素量を届けられなくなった状態を指します。ヘモグロビンは血流に乗って全身に酸素や栄養分、ホルモンなどを届ける役割があります。 そのため、ヘモグロビンの量が低下すると全身の組織に十分な酸素が行き渡らず、さまざまな不調があらわれるようになります。貧血は男性よりも女性に多く見られますが、女性は月経により血液や鉄分を失うことなどが指摘されています。また、高齢になれば貧血が増加すると言われています。立ちくらみ、息切れ、めまい、ふらつき、頭痛、胸の痛みなどの症状が起こります。
鉄剤の副作用と危険性
貧血は鉄不足だから鉄剤を服用すればいいと思っている方が多いかと思いますが、実は鉄剤をただ飲めばいいという訳ではなく、鉄剤には副作用や危険性があります。鉄には水に溶けている状態では「二価」と「三価」という二通りの存在形態があります。
植物性の食べ物に多い非ヘム鉄は、細胞内に取り込まれる際に、「三価」から「二価」への鉄となるのですが、この「二価」のむき出しの鉄が「むかつき」の原因となります。また鉄はヘモグロビンや酵素、タンパク質の形成に必要ですがこの「二価」の鉄イオンは過酸化物の存在下で、人類に知られた物質の中で最も強力な酸化力を持つ活性酸素の一つ”ヒドロキシラジカル”を生成します。これがフェントン反応です。鉄欠乏性貧血でもない人が鉄の摂取をつづけると体内の鉄は増えつづけ多くのフェントン反応を起こすことになります。
細胞内の酸化ストレスが増大しますので、それが副作用として癌をはじめとした慢性疾患の原因となります。ほぼ全ての癌細胞は細胞内に鉄をため込んでいます。逆に、鉄キレート剤(鉄と結びついて排泄させる。鉄過剰症の人に用いる薬)を用いて体内から鉄を除去すると、癌細胞は増殖を停止しアポトーシス(細胞死)が起きます。 鉄が病原微生物の増殖に寄与することも知られています。鉄の摂取量が多いほど、ヘリコバクターピロリを含む腸内の病原微生物の量も多くなります。数百万人ものアメリカ人が”鉄過剰摂症”に苦しんでいる原因は、ほとんど全ての加工食に鉄が添加されているからとも言われています。体には鉄の排出機能がないため過剰摂取された鉄は体内に蓄積されていくのです。1941年にアメリカで食品への鉄の添加が始まりました。アメリカのセリアック病患者(グルテン過敏症)は当時よりも4倍に激増しましたが、この背景には鉄による腸の炎症があると言われています。この炎症が、グルテンが未消化のまま腸壁を通過してしまい抗原抗体反応および自己免疫疾患を起こすとされるリーキーガット症候群の原因となっています。
また、鉄剤には本来なら廃棄されるような鉄鋼業のグラインドで生じた鉄が原材料として利用されたりもしています。これは、食品への鉄の添加や鉄サプリメントといった市場が生まれたために商用利用されたものです。鉄剤を飲み始めた人が、胃腸の不快感を訴えるケースが多いのは必然です。 鉄剤の過剰摂取により、肝臓に鉄が蓄積すると「ヘモジデローシス」と呼ばれる肝臓障害を引き起こすこともあります。鉄剤の使用は慎重に行いましょう。
貧血は鉄不足だけではない
貧血になる原因として、「鉄欠乏性貧血」と同程度に多いのが「亜鉛欠乏性貧血」です。 亜鉛が不足すると、赤血球の膜が脆く壊れやすくなり、味覚の鈍化、肌荒れなどの症状などもあらわれます。 亜鉛は鉄代謝の補酵素として働くため、亜鉛の欠乏は鉄欠乏性貧血を引き起こします。 鉄分の欠乏は単独では起こらず、むしろ低亜鉛血症と関連して発症します。鉄分と亜鉛を一緒に補給することで、鉄分の欠乏を改善してくれます。亜鉛はいくつかの酵素の補酵素であり、鉄代謝に関与していることから、亜鉛欠乏は鉄欠乏性貧血と関連しています。鉄欠乏性貧血患者に対しては、亜鉛濃度の測定と必要に応じた補給を検討した方が良いでしょう。
人のからだは、微妙な割合でミネラルバランスを保っていて、鉄だけを大量に摂取すると、亜鉛や銅の吸収が妨げられてしまいます。そうすると、他のミネラルが減る分、利用できる鉄の量が多くなりそうですが、逆にその利用は阻害されてしまいます。また、鉄を運んでくれるタンパク質(トランスフェリン)に鉄が乗る時に銅(セルロプラスミ ン)が必要で、亜鉛はヘモグロビンの合成にも関係しているので、これらのミネラルは一緒に摂るのが理想です。人は体重60kgの男性で約3g、体重50kgの女性で約2.5kgの鉄をからだの中に持っていると言われています。
ビタミンDが赤血球生成をサポートすることによって貧血を予防するかもしれないとも言われています。 ビタミンDを多く摂り、マグネシウムを多く摂ることで、ヘモグロビン値が上昇し、貧血のリスクが減少します。血中のビタミンD・マグネシウム濃度は、血中のヘモグロビン濃度と正の相関があることが示されており、両者の濃度を高めることで貧血のリスクを低減できる可能性がありま す。 ビタミンDとヘモグロビン値には有意な相関関係があり、ビタミンDが高いほどヘモグロビン値も高くなることがわかっています。
また、マグネシウムの欠乏も貧血の原因となることが示唆されており、マグネシウムを補給するとヘモグロビン値が上昇します。
赤血球の中にはヘモグロビンが存在しています。 そのヘモグロビンはヘム鉄(鉄ポルフィリン複合体)とグロビン(タンパク質)から構成されています。
鉄には、動物性食品に含まれる「ヘム鉄」と、植物性食品に含まれる「非ヘム鉄」があり、ヘム鉄はもともとタンパク質に包まれて吸収されやすい形になっており、非ヘム鉄に比べて吸収が良いです。非ヘム鉄の吸収率は非常に低く、吸収される時に活性酸素を出して粘膜を攻撃してしまいます。 ヘム鉄と非ヘム鉄の大きな違いは、鉄分子がタンパク質に覆われているかどうかです。 非ヘム鉄は鉄が剥き出しの状態なのに対し、ヘム鉄はタンパク質に覆われています。 ヘム鉄はこのタンパク質により、他の成分の吸収阻害を受けにくいため、吸収率が良いのです。 鉄を含む食品はタンパク質、ビタミンCと一緒に摂ると鉄が吸収されやすくなります。コーヒー、紅茶、緑茶などに含まれるタンニンは特に非ヘム鉄の吸収を妨げると言われており、玄米等に含まれるフィチン酸、食物繊維なども鉄の吸収を妨げると言われています。 同じ量の鉄でも、ヘム鉄と非ヘム鉄の消化管からの吸収率が5~6倍近い差があります。 鉄は、胃酸によって小腸で吸収できる状態になります。そのため、まずは胃酸の分泌を促して鉄の吸収率アップさせることが効果的です。 どんな栄養素もただ足せばいいという訳ではないので注意が必要です。
貧血にも種類がある
貧血は、赤血球のもとである「鉄分」の不足によるものというイメージが強いかもしれませんが、実は様々な原因があります。最も一般的な原因は体内の鉄分濃度の低下ですが、その他にも、ビタミンB12、葉酸、葉酸塩の低下、遺伝的条件、甲状腺疾患や腎臓疾患などの特定の疾患が原因となる貧血もあります。
貧血は医学的には主に4種類に分けられます。
1)鉄欠乏性貧血
若年層に多く、ヘモグロビンの材料となる鉄不足による貧血です。これは若い女性の4人に1人が経験しているといわれています。妊娠中の方は鉄不足に陥りやすいです。過剰出血を起こし、鉄不足になる原因には月経、出産、外傷、消化器がん、潰瘍などがあります。タンパク質、ビタミンB6不足により起こる可能性もあります。
2)巨赤芽球性貧血
ビタミンB12または葉酸の不足を原因とする貧血の総称です。ビタミンB12と葉酸は赤血球を合成する役割があり、どちらかが欠乏するとDNA合成が阻害され、未熟な赤血球(巨赤芽球)ができて、貧血を起こします。ビタミンB12は主に動物性食品に多く含まれ、食事を通じて摂ると胃の中で胃液に含まれる内因子と結合し、肝臓などで貯えられるため、胃を全部切除した患者や萎縮性胃炎の人がなりやすいです。菜食主義者、妊婦などもビタミンB12や葉酸の不足により発症することがあります。中でも、胃粘膜が萎縮していたり、胃液の分泌が悪かったりすることが原因のものを「悪性貧血」と呼びます。
3)再生不良性貧血
血を作る機能の低下を引き起こす貧血です。骨髄異形成症候群などの骨髄の病気のほか、重症の腎臓病(腎不全)、関節リウマチなどがあります。ビタミンA不足によっても起こる可能性もあります。
4)溶血性貧血
赤血球やヘモグロビンの構造の異常や免疫系の異常により、赤血球が通常より早く壊されてしまう貧血です。血管の中を流れる赤血球が破壊(溶血)されることにより起こります。ビタミンE、コレステロール不足により起こる可能性もあります。
最後に
月経のある女性、菜食主義者、ダイエットなどの食生活をしている方は特に貧血になりやすいので注意したいですね。 小麦が合わない人(セリアック病・小麦不耐症)が小麦を日常的に食べると鉄欠乏性貧 血になるともいわれています。 腸の炎症により体内に老廃物を溜め込み、血液の状態の悪化を避けるためにも、まずはグルテン、カゼインを断つことをおすすめします。
貧血にも種類があるので、血液検査をして不足している栄養を把握して、ご自身に必要な栄養素を摂取していきましょう。